『映像授業で世界の高校生に大学進学の機会を!』Dell Social Innovation Challenge 2012 ファイナリスト e-Educationプロジェクト 代表者 税所篤快さんにインタビュー

世界の新興国、途上国では都市部と農村部の間で、大きな教育格差が存在しています。設備や教師、教材の不足という深刻な状況が大学進学率に影響し、貧困の連鎖を引き起こす原因となっています。その現状を目の当たりにし、現地の教育にイノベーションを起こすべく、立ち上がった日本人大学生がいます。税所篤快(さいしょ あつよし)さんは、バングラデシュの農村部やパレスチナ難民キャンプで暮らす学生たちに映像授業を提供し、大学進学を支援する 「e-Education 」というプロジェクトの代表者です。現在も海外をベースに活動する税所さんは、現地の大学生とチームパートナーを組み、映像授業を5大陸での実施を目指す「e-Education in 5 Continents」を展開中です。彼のプロジェクトは、デルがテキサス大学と提携し、全世界の大学生を対象に、社会問題や環境問題への取り組みやアイデアを競い合う場を提供する、毎年恒例のプログラムDell Social Innovation Challengeに 本年、ファイナリストとしてトップ5に選ばれました。これは日本人学生として初の快挙です。現在、帰国中の税所さんに、プロジェクトを立ち上げたきっかけ、その進捗、そして今後目指す方向性を伺いました。

    

(左) 税所篤快さん                                     
(右) Dell Social Innovation Challenge 2012 アワードセレモニーでの税所さんとe-Education のプロジェクトメンバー

― e-Educationプロジェクトを立ち上げたきっかけは?

大学2年生の時に出合った1冊の本、『グラミン銀行を知っていますか』が大きな転機でした。バングラデシュの貧しい人びとを対象とした無担保の融資「マイクロクレジット」と、それにかかわりながら生活の質を高めようと、懸命に生き、挑戦する女性たちの姿が鮮烈でした。読んですぐに著者の坪井ひろみ先生に連絡を取り、先生が在籍している秋田大学を目指して、その日のうちに夜行バスで秋田に向かいました。先生のお話を聞いて、やはり自分の五感を通して現地の状況を知るべきだと考え、1か月後にはバングラデシュへ渡航していました。フィールドワークで村の色々な学校を訪ねた際、教師や教材が不足しているケースを数多く目撃しました。そこで、自分が高校時代に予備校で受けていた、パソコンとDVDを使った授業を展開できるかもしれない、というアイデアが浮かんできました。

― 立ち上げるまでのプロセスは?

「都市と農村部の教育格差をITで埋める」をテーマに、「現地高校生の大学進学を支援する」というコンセプトで固めました。そのために、まずは日本で寄付を募る活動をしました。高校時代にお世話になった予備校のご厚意で80万円寄付金をいただき、1年目のトライアルプロジェクトの資金にあてました。次に、チームパートナーとして迎えた現地の大学生たちと授業の素材として、バングラデシュ国内で有名な先生3名をピックアップし、それぞれに直談判し、英語、国語、社会の授業を20時間、DVDに収録しました。その素材を持ち帰り、パソコンを設置した村の小屋で、再生して、映像授業を始めました。授業料は無料で、寄付金からまかないました。1年目は受験生である高校3年生が30名集まり、皆、授業を楽しみながらも、真剣に勉強に打ち込んでいました。

― その効果は?現在の進捗は?

 結果的に30名中、20名が大学に見事に合格しました。そのうちの1人は「バングラデシュの東大」と言われる超難関校、ダッカ大学に進学しました。実施した村がハムチャー村だったので、この出来事は「ハムチャー村の奇跡」と、現地の新聞でも大きく報じられたほど、話題を呼びました。バングラデッシュの次にターゲットにしている地域は、ヨルダンのパレスチナ難民キャンプとアフリカのルワンダです。特にバカア難民キャンプという最貧困の地域の女子高校を対象に、同様のメソッドで実施しました。敬虔なムスリムの地域では女子は保守的な生活をおくることが通念で、女の子は高等教育を受ける機会に恵まれていません。その固定観念を打破するのもやはり教育の力なのだと実感しました。実施した高校の女子生徒は非常に勉強熱心でみるみるうちに学力を伸ばしていきました。結果的に多くの女子高校生が大学進学のチャンスを勝ち取りました。私たちの展開するプロジェクトを通して、「ITや映像を使った授業が教育格差を解消する」ということが立証できると思います。

― これからの目標は?

 映像授業のメソッドを5大陸で実証実験をして、どこで一番ニーズがあるかを検証し、文字通り「e-Education in 5 Continents」を遂行します。現在、次に目指すのは中南米と南米の国々です。新興国の学校では大方、PCを完備し、パソコンルームもあるのですが、コンテンツの不足が問題です。できるだけ多くの地域に、現地でも有名な先生の授業を映像に収録し、質の高い授業を提供したいと思います。そのためにも、パートナーとなる現地の大学生のネットワークも必須です。

Dell Social Innovation Challengeでは、各国の学生の斬新なプロジェクトに出合えた、刺激的な機会でした。私たちe-Educationは、これからも世界中の学生に「勉強する楽しみ、学ぶ喜び」を世界に届けていこうと考えます。現在、プロジェクトの募金活動として、国ごとにミッションを設定したネット上のクラウドファンディング「READYFOR?」を持っています。私たちの活動を紹介する動画もありますので、是非こちらのサイトをご覧ください。

 

【プロフィール】税所 篤快(さいしょ あつよし)

1989年生まれ、東京都出身。早稲田大学教育学部在籍(現在、休学中)。19歳でバングラデシュに渡り、さまざまなフィールドワークに従事。特に、教育環境の改善に力を注ぎ、20歳の時にバングラデシュ初の映像授業を実施する「e-Educationプロジェクト」をスタート。現地の大学生パートナーと協力しながらバングラデシュ、ヨルダン・パレスチナ難民キャンプ、ルワンダで本プロジェクトの展開を続ける。著書は『前へ!前へ!前へ!』(木楽舎)

■ e-Educationクラウドファンディング:READYFOR?

■ e-Education 活動紹介:2011年バングラデシュ(動画)

■ e-Education 活動紹介:2012年パレスチナ(動画)

■ (英語)e-Education in 5 Continents紹介(動画)

Dell Social Innovation Challengeについて

デルがテキサス大学と提携し、全世界の大学生を対象に、社会問題や環境問題への取り組みやアイデアを競い合う場を提供するプログラムで、2007年の開始以来、毎年募集を行っています。対象は、学生が参加しているコミュニティ活動、または学生が考案したトレーニングツールやベンチャービジネスなどで、斬新なアイデアが世界規模のさまざまな問題解決につながること、若い力が世界を変えうることを応援しています。デルのCEOであるマイケル・デル自身、テキサス大学の寮の一室でITビジネスをスタートさせた背景もあり、デルはグローバルにおいて、若い起業家のチャレンジを後押ししています。2007年の開始以来、合計105もの国と地域から、のべ15,000人の学生が4,000以上のユニークなプロジェクトを競い合ってきました。今年2012年は、105の国と地域から、約 1,800組の募集があり、環境問題、サステイナビリティ(持続可能性)、貧困、健康や女性の権利などの問題解決につながる、さまざまなアイデアが集まりました。

■ (英語)Dell Social Innovation Challengeについて(詳細)

■ (英語)Dell Social Innovation Challenge 2012 Award Ceremony (動画)

■ (英語)Dell CSR “Powering the Possible” (動画) 

About the Author: Dell Technologies